残念九州新幹線FGTの開発断念 北陸にはまだ期待

九州新幹線で導入を検討し実験を進めていたフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)について、九州新幹線長崎ルート(博多-長崎)の与党検討委員会は19日の会合で、長崎ルートでの先行導入を断念することを決めた。フリーゲージトレインは九州に続いて北陸でも導入を期待されていたが、九州の断念で北陸もほぼ絶望的になった。2023年金沢-敦賀が延長開業すると大阪や名古屋から北陸への直行特急がなくなりかえって不便になりそうだ。

2015年北陸新幹線金沢駅が開業。関西、福井からは金沢乗り換えとなった

九州新幹線長崎ルート博多から長崎までで新鳥栖で鹿児島ルートと分かれる。佐賀県の武雄温泉から終点の長崎までは新幹線の広いレール幅(広軌=標準軌)で工事が進められているが、途中の新鳥栖から武雄までの新幹線メリットの少ない佐賀県が多額の工事費がかかるは広軌での整備に難色を示し、佐賀県内は従来の狭軌の線路を使い、長崎で再び広軌に戻る変則的な路線運行を目指していた。新幹線の広軌と在来線の狭軌、この区間を走らせるには、レールをかえて対応するか、電車の能力をアップして幅の違う線路を走り抜けるかどちらしかない。

レールの幅を変えて対応したのが東北新幹線の枝線となる山形新幹線と秋田新幹線。在来線の運行を一時中止しながらレール幅を広げ、在来線の電車も広軌対応の車両を導入した。工事期間が長くなることと経費がかかることが難点。

九州新幹線はレール幅の違う路線をひとつの車両で走り抜けるフリーゲージトレインの運行を目指した。電車の車輪は普段は幅が変わらないようロックされているが、軌間変換装置区間を通過すると線路の幅に合わせて車輪の幅が変化する仕組み。車輪の幅はロックされているが軌間変換装置区間を通るとこれまで走ってきたレールが沈み、車体支持レールで車体を支える。ロックが外れて車幅が変わる仕組み。JR九州などは熊本県八代市で実験を進めてきた。JR西日本も研究を進めてきた。JR西日本も動画で車輪幅が変わる仕組みを紹介している。

ただ車輪幅が変わる軌間変換装置区間を通過するとき車軸が摩耗するなどの問題があり開発研究が予定より遅れていた。

FGTは長崎新幹線から九州新幹線本線を通り山陽新幹線を走る予定だった。しかし車軸の摩耗が起きやすいことがわかり開発が遅れJR九州と、JR西日本の共同運行となるがJR西日本側が高速化している山陽新幹線でのFGTの運転を270キロ以上のスピードを求めたからJR九州は「FGTは特殊な車両でコスト高く、収支採算性がなりたたが難しくなった。

自民党を中心に検討を進めていた与党検討委員会は7月19日には長崎ルートへの導入を断念することを決めた。

ただ長崎新幹線は長崎県内の武雄-長崎間はフル規格で建設を進めているものの、その間の新鳥栖-武雄間は在来線を活用することになっていて、佐賀県はフル規格の整備に難色を示している、在来線を使うなら東北の山形新幹線や秋田新幹線のようなミニ新幹線かFGTかどちらかとなる。ミニ新幹線は狭軌の在来線の線路を新幹線幅に広げなくてはならない。ミニ新幹線とFGTとは狭軌と広軌、線路幅の違う路線を結ぶ究極の選択だ。

ミニ新幹線は線路幅を広げるため、建設費がかかる。工事のため在来線の運行を一時止めなければならない。新幹線と連結して走らせると新幹線部分では新幹線車両より幅が狭く普通車新幹線が5列シートなのに対し、4列シートになる。新幹線ホームでは乗り降りのためステップが伸びてくる。一方で在来線区間を走るときは踏切もあり、事故の確率も高まる。山形や秋田新幹線のようにレールを広げたら狭軌対応の車両は走れず入れ替えなければならない。

フリーゲージトレインは電車の方で両方の線路に対応するため路線の改修費は少なくすむ。従来の車両もそのまま使える。長崎新幹線にはまさにおあつらえ向きの車両だったが、残念ながら九州では日の目を見ることはなさそうだ。

九州でFGTが実現すれば新幹線に接続している全国のいろいろな地域で応用が期待されていた。新幹線空白区域の和歌山県も新大阪接続で紀勢本線を通り、和歌山、新宮までの路線を要望している。四国も新幹線を求める中、FGTで瀬戸大橋を通り予讃線を走るというプランもあり、四国中央市の予讃線で試験走行も行われた。新潟県も新潟から山形県への羽越本線にFGTを導入、上越新幹線と直通運転する研究が進んでいる。北海道でも北海道新幹線開業後にFGTで接続を研究する自治体もある

それが九州での導入断念は新幹線延長の夢をFGTに託していた地域の夢をしぼませてしまう。中でも九州に続いて導入を真剣に考えていた北陸新幹線は影響が大きい。

北陸新幹線は2015年に金沢開業。さらに2023年春に福井県敦賀市までの延伸を目指して建設工事が進む。敦賀開業後はFGTを湖西線に走らせ大阪と福井、金沢、富山を直結させる計画だった。九州で走るFGTを寒冷地仕様に改造して走らせることにしていた。

もともとJR西日本は2023年春の敦賀開業は間に合わないと明言していた。九州の断念で北陸新幹線接続が消えたわけではないが、北陸新幹線自体が敦賀から京都を通り新大阪まで延長していくことが決まり今後のルート決定と予算化が進んで本線自体が早く実現すればFGTの運転期間は短くなり、開発への動機が弱くなる。

 

FGTがなくなるとこれまで大阪、京都まで特急で乗り換え無しでいけたのが不便になる可能性が高い。新幹線が開通するとこれまで走っていた北陸本線は並行在来線としてJR西日本は運営から離れることになる。現に金沢からは富山県境の倶利伽羅駅まではIRいしかわ鉄道、倶利伽羅から富山-新潟県境の市振まではあいの風とやま鉄道、市振りから新潟-長野県境の妙高高原からはしなの鉄道が運行している。それぞれ行政が参加している第3セクターの鉄道だ。第3セクターの電車同士は共同運行したりしているが、JRの電車は乗り入れていない。

北陸新幹線では2015年3月に長野から金沢まで延伸して確かに金沢や富山から東京や長野県へいくのは便利になったが関西や中京から富山へ行き来するのは不便になった印象がある。福井-富山間もそうだ。大阪や名古屋から富山への直通特急が消え金沢で新幹線か第3セクターの電車に乗り換えなければならない。新幹線を使えば料金も高くなった。金沢での乗り換えもホームから階段やエスカレータで連絡通路に降りてまたホームに上がらねばならず面倒だ。

2023年に金沢から敦賀まで路線が延びるとこの乗換駅が敦賀となる。新幹線と特急の乗り換えは5分程度になると想定されている。公表された乗り換えのイメージによると新幹線が上のホームで下に在来線の特急がある。在来線の特急とは敦賀から大阪方面に向かう電車。米原方面にも向かうのかもしれない。現在の敦賀駅と新幹線の敦賀駅とは離れているため敦賀で在来線に乗り換えるには距離があり「動く歩道」の設置が計画されている。関西から敦賀で降りたり、小浜線に乗り換えたりはいまよりはずっと不便だ。

上下乗り換えの敦賀駅がイメージされているということは、もう既にフリーゲージでの直通はあきらめているということなのだろうか

福井県内では現在のサンダーバードやしらさぎの運行継続を求める声もある。しかしサンダーバード、しらさぎの運行が続けば乗り換えがないだけに乗りやすく、新幹線と大きな時間の開きもない。鯖江駅など新幹線の停まらない駅で乗り降りできる。

価格が安ければ新幹線に乗らずに従来の特急でいいという人も多そうで新幹線の収支は悪くなりそうだ。第3セクターの線路をJR西が常時運行するのかという問題もある。

北陸新幹線の敦賀以西は小浜付近から京都駅に向かい新大阪に乗り入れるということは決まっているが細かなルートや開業時期はまだ決まっていない。福井県は北海道新幹線の札幌乗り入れの2031年までの開業を求めているものの見通しは立っていない。

いまさら湖西線を拡張工事してミニ新幹線を走らせることはできないし、FGTが実現しないと敦賀乗り換えはかなり長期化しそうだ。

FGTは山陽新幹線の高速化に対応できないことも九州断念の理由のひとつだが、北陸新幹線の敦賀-金沢はそこまで高速化しなくても十分に魅力はある。新大阪でなく大阪駅までいけるのも大きな魅力だ。

もともと広軌の近鉄は独自にFGTを開発して吉野まで乗り入れることを目指すという。

日本の鉄道は技術革新で素晴らしい高速鉄道を実現させてきた。ここでFGTを断念することはなんとも惜しい気がする。大阪―敦賀間は鉄道会社をまたがずJR西日本だけで実現できる。乗客の便利さのため、和歌山など他の地域への応用展開のためもうしばらく研究を続けてほしい。

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